大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉家庭裁判所 昭和61年(少)443号 決定

少年 M・O(昭42.12.13生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和60年12月20日午前5時15分ころ、千葉県印旛郡○○町○○××番地所在○○少年院第×学寮×室において、就寝中のA(当18年)に対し、座机でその側頭部、肩部、左腕等を殴打する暴行を加え、よつて、同人に加療約3週間を要する左肘頭部骨折の傷害を負わせたものである。

(法令の適用)

刑法第204条

(処遇の理由)

少年は、昭和60年11月8日、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反で中等少年院送致の決定を受け、同月11日、○○少年院に収容され、同院第×学寮×室で他の収容少年4人と共に院内生活を送つていたが、同年12月20日午前5時15分ころ、用便のために起きた際、隣りに寝ていたAの顔を見るや、前日午後7時25分ころに同人とテレビビデオのことで口論となり、馬鹿にされたことを思い出し(すなわち、右時刻ころ、同室ではテレビビデオを見ることになつたが、右Aがテレビ放送を見られなかつたことに不満で不平を言つていたのを両親宛ての手紙を書いていた少年がうるさく感じて、同人に対して、「見たくないのなら便所にでも引つ込んでいろ」と言つたことから口論となり、他の少年の制止もあつたのでその場は格闘などにならずに治まつたが、最後に同人から「ふざけんじやねえ、この頭でつかち」との悪口を言われていた。)、仕返しを目的として居室内にあつた座机(天板木製、脚部スチール)の脚部分を両手で持つて就寝中の同人の側頭部を1回殴打し、さらに肩部等をふとんの上から2、3回殴打し、これに気づいて左腕で防御する同人に対してなおも顔面等に向けて殴打し続けて前記傷害を負わせたものである。

少年の行為は、就寝している無抵抗な被害者に対する机を用いての執拗な攻撃であり、それ自体危険かつ悪質なものであるうえ、被害の程度も軽くないし、他の収容者や院内秩序に及ぼす影響も大きいと認められるから、単なる規律違反の域にとどまるものではない。

そこで、現在中等少年院で矯正教育を受けている少年について、新たな保護処分をする必要の有無が問題となり、本件非行の内容及び重大性、少年の自己中心的な攻撃性、2度の中等少年院収容歴などに照らすと少年を特別少年院に送致することも考えられないではないが、被害者にもその言動において落度があり、少年が被害者に対して強い不満を抱いた心理も特異なものではなく、通常の理解が可能であること、少年は71日間の独居での謹慎生活を送り、自己の行為が卑法なものであつたと反省の態度を示していることなどを斟酌すれば、特別少年院送致までの強い処分は相当ではないと考える。しかしながら、本件非行の内容及び重大性などに照らすと、一定の保護処分により、少年に対して自己の行為についての規範的な責任を自覚させ、あわせて院内秩序を確保することの相当性も認められるし、本件が少年、被害者などの今後の矯正教育上の障害となるのではないかとの不安を解消するためには、少年自身が人的、物的に新しい環境で矯正教育を受けることが望ましいといえることなどから少年を新たな保護処分に付する必要性は決して少なくないといえる。

以上のような諸般の事情を総合勘案すると、一定の処遇勧告を付して少年を中等少年院に送致することが相当であり、処遇勧告の内容としては、新しい環境での矯正教育が必要であること、さらに、必要以上に少年の不利益とならないために、既に実施された矯正教育の内容及び期間を今後の院内処遇において充分に斟酌することの2点であると考える。

よつて、少年を中等少年院に送致することとし、少年法第24条第1項第3号少年審判規則第37条第1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 片瀬敏寿)

処遇勧告書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例